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【考察】深山日影は遠野英治なのか?

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こんにちは。荷物運び用荷物(@nimotsu_hakobi)です。

金田一少年の事件簿シリーズで特に有名な、イニシャルS・Kの人皆殺し計画を実行した凶悪犯「ジェイソン」遠野英治。一度は死んだと思われていましたが、「黒死蝶殺人事件」ではこの遠野とそっくりの人物・深山日影が現れます。この二人は、同一人物なのでしょうか?

今回は黒死蝶殺人事件を中心に深山の情報を集めて、本当に遠野と言えるのかどうかを検証します。

 

目次

 

■人物紹介

まず初めに、遠野と深山のわかっている情報を整理します。

【1】遠野英治

不動高校3年生。悲恋湖伝説殺人事件の犯人だった。動機は、恋人(妹)を殺した人物への復讐。悲恋湖で死んだとされているが、死体は見つかっていない。

【2】深山日影

斑目紫紋の助手。3ヶ月ほどまでに斑目家にやってきた。それ以前の記憶がなく、身寄りもない。事件後、斑目揚羽と結婚する。

二人は、顔と声がそっくりであることがわかっています。

 

■検証

悲恋湖伝説と黒死蝶を読んで、深山と遠野が同一人物であると言える理由、また言えない理由を整理しました。

 

「深山=遠野」と言える理由

深山=遠野と言える肯定材料を集めました。

 

【1】性格・行動パターンなどが遠野に似ている

例えば、平常時(犯罪を犯していないとき)は感じが良く、好青年であるところが似ています。遠野は去年までの生徒会長で、悲恋湖の序盤の会話を見ていても、好青年であるという印象です。

序盤で深山は、紫紋を取材しに来た初対面の金田一たちに、自ら愛想良く話しかけに行っています。

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(黒死蝶殺人事件 P51)

変わり者で面倒くさそうな斑目紫紋の助手が務められていることからも、普段は温和で優しい青年なのでしょう。しかもイケメンですし、無差別殺人犯でなかったら私が彼女に立候補したいところですね。

 

次に、恋人のためならと危険を顧みず、自分の人生・命をかけようとする点も一致しています。

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(黒死蝶殺人事件 P145)

揚羽のいる浴室に放たれた毒グモをものともせず、深山は危険を承知で裸足で助けに行ったのでした。

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(黒死蝶殺人事件 P151)

さらに、殺されるのは自分だと怯える揚羽に対して、深山は自分の命に代えても揚羽を守ると発言していました。実際彼女のためにどこまでする覚悟があるのかわかりませんが、遠野も事故で失った妹の復讐のために、殺人計画を練ったり自殺(未遂?)をしたり……と、自分の人生全てをかけています。もしも有言実行するのなら、遠野の要素はあるでしょうね。

 

二人の共通点は、探せば探すほど出てきます。続いて、恋人に何かした奴を容赦なく攻撃する一面。

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(黒死蝶殺人事件 P172)

終盤、揚羽に言い寄ってきた小野寺をぶん殴るシーンです。バキッという音が鳴り響いているので、出し得る最大限の力で殴っていると思われます。登場シーンでは弱そうでしたが、やはり数ヶ月前まではジェイソンだったからなのか、腕の力は大したものです。今回深山は殴っただけで済みましたが、遠野は螢子を殺した犯人に復讐するために、殺人鬼ジェイソンとしての殺人を決行しました。深山は遠野ほどのことはしたわけではありませんが、攻撃的になってしまう面があるのは否めません。

 

まだあります。周囲に内緒で恋人と二人で出かけよう(逃げよう)として、失敗してしまうという行動パターンも共通しています。

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(悲恋湖伝説殺人事件 P194)

遠野は養母に黙って螢子と旅行に行こうとしていましたが、直前にバレて自身が行くことは叶いませんでした。

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(黒死蝶殺人事件 P188)

一方深山も、揚羽を連れて黙って家を出ようとします。次に殺されるとしたら揚羽でしょうし、小野寺も揚羽に言い寄ってきているしで、ここで家を出る決断するのは読者である私も大賛成です。しかし、今回は警察に阻まれてしまいました。

これはもう同一人物確定か、そうでなければ葬送銀貨でいう精神的双子でしょう。

 

【2】殺人鬼「ジェイソン」の最期の状況と一致する部分が多い

深山は3ヶ月程前に紫紋が屋敷に連れられてきており、それまでの経歴は不明です。身寄りもありません。

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(黒死蝶殺人事件 P59)

情報通のいつきさんでも、これ以上の情報は集められませんでした。

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(黒死蝶殺人事件 P104)

揚羽も、これ以上のことは何も聞かされていないようです。

ここから、悲恋湖での爆発以来、遠野は記憶喪失になってしまっていると考えることができます。

 

深山が紫紋に気に入られた理由。それは、背中に蝶の形をした火傷の跡があったからです。火傷が蝶の形になってしまったのはたまたまとして、この火傷はボートが爆発したときの火傷ではないでしょうか。

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(黒死蝶殺人事件 P94)

さらに深山はこのシーンで、火を怖がる様子を見せています。これは爆発事故に巻き込まれて、大怪我をした過去があるからではないでしょうか。悲恋湖に集められたメンバーは、客船の事故のトラウマから水恐怖症になっています。別の事件では、絞殺される様子を見てしまった玲香ちゃんが首に何かを巻きつけることが出来なくなっています。この「事故後に何かの恐怖症のなってしまうパターン」を当てはめると、遠野はボートの爆発に巻き込まれ、命は助かったものの火が怖くなってしまったと考えることができます。

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(黒死蝶殺人事件 P130)

病院の人の証言から、深山は発見されたときに全身にひどい火傷と打撲を負っていたことがわかっています。火傷と打撲は、爆発で起こる怪我と考えて違和感がありません。

 

絶対遠野な気がしてきました。

 

「深山=遠野」とは言えない理由

続いて、深山=遠野とは言えない否定材料を集めてみました。

 

【1】直感がよく当たる金田一が、あまりピンと来ていない

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(黒死蝶殺人事件 P53)

自殺したかに見えた犯人の遺体を見て「真犯人は別にいる気がする」と感づいたり、殺人後の犯人の小さな違和感に気がつき殺人に気づいてしまう金田一の直感を侮ることはできません。金田一がなんとなくでもそう思っているのなら、違うのかもしれませんね。彼は、我々一般人は持ち得ない第六感が発達しているのです。

 

【2】あんなに愛していた螢子のことを忘れ、ほかの女性(揚羽)と結婚する

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(黒死蝶殺人事件 P62)

屋敷に来てまだ3ヶ月くらいしか経っていないはずの深山ですが、なんと既に次女・揚羽とできているようです。

深山が遠野だったとしたら、あんなに螢子を愛していたくせにここまで簡単に他の女性を好きになってしまうのでしょうか。おぼろげにだとしても、誰か愛していた人がいたような記憶は少しも残っていないのでしょうか?

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(黒死蝶殺人事件 P291)

そしてなんと事件後には、深山は揚羽と結婚しています。「えーーー!?お前悲恋湖で無関係な人間をあんだけ殺しておいて!」と感じた読者も多かったと思いますが、金田一は既に遠野は死んでいるとし、それを否定しています。金田一は最後まで、今の彼の心は遠野とは別人なのだから遠野とは別人である、と考えているようです。

大量殺人を実行するほど愛した女性を忘れるはずがないので遠野ではないという意見は、「遠野=深山」説を否定し得る一つの理由になると思います。

 

【3】長野から金沢の山林まで移動するのは遠過ぎる

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(黒死蝶殺人事件 P130)

金沢寄りのなるべく端っこの長野県から金沢駅(山林がどこなのかわからないため、一旦金沢駅とした)のルートをGoogleマップで検索してみると、高速道路を使っても車で3時間半、使わなければ4時間40分かかることがわかりました。それが徒歩ともなると23時間かかるようです。そもそも、富山県か岐阜県を越えないと金沢には辿り着きません。直線距離ならもう少し早く行けるのかもしれませんが、迂回ルート以外にGoogleマップで見ることのできる道路がありません。

例の爆発事故があって生きていたとしても、金沢まで歩いて辿り着けないだろうと考えるのが妥当です。

 

「深山=遠野」とは言えない理由への反証

「深山=遠野」と言える理由がしっかり揃っていたので、あとは否定理由の反論をします。

 

【1】猿も木から落ちる。金田一も推理を間違う

首吊り学園で浅野先生のミスリードに騙されたり、蝋人形館で明智さんを疑ったり、のようなことは過去にあったので、単に金田一が信じたくなかったのではないでしょうか。また、遠野とは別人として扱うことで、人生をやり直す深山を応援していたのではないでしょうか。

 

【2】記憶がない以上、恋人を忘れているとしても仕方がない

これは周囲の人間とか読者からすると寂しいですが、記憶がないのでどうしようもないですよね。記憶喪失とはいえ、過去と決別し新しい人生を歩めてはいるので、悪いことではありません。それに、惚れた女性をかなり大事にする性格はどうやら遠野時代と変わらなそうです。

とはいえ、被害者遺族からすれば納得はいきませんよね……。

 

【3】金沢から長野まで、●●によって移動した

この謎が最難関です。考えられるのは3つ。

①怪我を負いボロボロになりながら、自力で歩き続けて、金沢の山林で力尽きた

②長野から金沢まで、誰かが運んだ

③病院の人が、見つかった場所について嘘の証言をしている

一つずつ考えていきます。

①は最後の力を振り絞って歩き続けたとしたら、絶対あり得ないとまでは言えないのかな、と思いました。遠野はかなりバイタリティの高い人間なので、できるかもしれません。

②で誰かが運んだとしても、誰がなんのために?という疑問が残ります。可能性があるのは、高遠遙一です。遠野は復讐のために多くの人間を殺害しましたが、本当に殺さなければいけなかった相手である甲田は殺せていません。高遠が復讐を完了させないかと遠野を誘うために 人に見つかりやすい場所に遠野を運んで命を助けた可能性はあります。しかし、目が覚めたときには遠野はそれまでの記憶を失ってしまっていたのです。高遠の復讐希望者スカウトが記憶喪失によって失敗した、という説です。

③だった場合、長野-金沢間の距離問題を考える必要はなくなります。しかし、ここでも誰がなんのために?という疑問が残ります。この問題は、ちょっと一旦小脇に置いておきましょう。

 

深山に関する不可解な点

読み進めていくうちに、疑問に思った点があります。深山は殺人鬼「ジェイソン」の正体だった遠野英治と明らかに顔が似ているはずなのに、警察側から深山は遠野なんじゃないか?という話が一切出てきません。大量殺人が起きていますから、写真は必ず報道されているはずです。

猪川警部なんて序盤のアリバイ整理のときからめちゃくちゃ深山を疑っていますが、ベラベラと喋る推理の中にジェイソンの話が一つも出てきません。深山を疑っていてどうしても犯人のしたければ、「連続殺人鬼ジェイソンなんだから今回の殺しもお前がやったんだろう」って言えばいいと思うんですよね。でも、一言もその話はしません。

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(黒死蝶殺人事件 P190)

駆け落ち未遂シーンでは、もう逮捕しようとしちゃってますしね。

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(悲恋湖伝説殺人事件 P83)

そのヒントになりそうなのが、この台詞です。遠野英治の血の繋がっていない今の父親は、悲恋湖リゾート開発を計画していたリゾート開発会社の社長です。父親の権力がどれくらいのものかはわからないのですが、遠野英治が実は生きていたことを父親が知って、逮捕されないよう警察に圧力をかけていた、ということは考えられないでしょうか。「死んだことにしておいてくれないか」「悲恋湖の事件の容疑者・遠野英治は死んだので捜査は終了してほしい」という話を遠野の父親が警察に持ちかけていたのです。

圧力をかけられていて遠野英治としては逮捕に踏み切れない警察ですが、全く別の殺人の容疑があれば逮捕することができます。だから、この事件で深山が犯人ということにできれば、警察にとって都合が良かったのだと思います。

この説を信じると、「遠野=深山」疑惑を少しでも払拭するために、遠野の父親からの要望で少し遠くの金沢で発見された「ことにした」のではないでしょうか。金沢が発見場所なら、遠野とは別人だね、で納得してもらえるかもしれないですからね。

 

■結論

以上から考えると、遠野と深山は共通点が多いことからも、やはり同一人物だと考えるのが自然であると言えます。

そのために最大の問題となるのが金沢-長野間の移動ができたかどうかですが、おそらく以下の3つのうちのどれかが起こったものと思われます。

①最後の力を振り絞り、歩いて移動した

②高遠が復讐希望者スカウトのために移動させた

③遠野の父親が権力を使って事実と異なる発見場所の情報を流させた

このうちのどれが正解なのか。ここから先は、私も結論を出すことはできませんでした。というか、考えるべきことが多すぎて疲れたので考えるのは一旦やめた!

 

■「【考察】深山日影は遠野英治なのか?」のまとめ

情報の断片を拾い集めていくことで、これまででは思いつかなかった説が浮上してきました。自分自身もびっくりです。

検証をやってみて感じたのは、細かく読んでいくと遠野と深山には共通点が本当にたくさんあるということです。他の事件もちゃんと読み解けば、直接言及されていること以上に見えてくることがありそうです。

久しぶりに読み返すとき、遠野の登場回なら「悲恋湖伝説殺人事件」、深山の登場回なら「黒死蝶殺人事件」ですよ!

 

(検証日:2021年5月2日)

 

■参考文献・サイト

・天樹征丸・金成陽三郎・さとうふみや『金田一少年の事件簿 File(6) 悲恋湖伝説殺人事件』2012年/講談社

・天樹征丸・金成陽三郎・さとうふみや『金田一少年の事件簿 File(16) 黒死蝶殺人事件』2012年/講談社

 

 

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